公益社団法人日本超音波医学会|The Japan Society of Ultrasonics in Medicine

機器及び安全に関する委員会

医用超音波の安全性に関する調査及び基礎実験に関する報告(平成10年度)

一般社団法人日本超音波医学会
機器及び安全に関する委員会
委員長 伊東正安

日本超音波医学会機器および安全に関する委員会では医用超音波の安全性に関する調査及び基礎実験を行い,また安全性に関する啓蒙を行っております。ここに活動状況を報告し,その結果が会員諸先生にとりまして役に立つことを希望しております。

本研究の経緯


機器及び安全に関する委員会
副委員長 名取道也

近年諸外国では,いわゆる超音波増感剤(超音波造影剤,コントラストエージェント,マイクロバルーンコントラストエージェントなど)が循環器領域を始め消化器,婦人科,泌尿器科など超音波医学の多くの領域で臨床応用されるようになってきている。増感剤はshellとして,ガラクトース・パルミチン酸やアルブミンなどを使用し,信号強度の増加によるBモード画像,パルスおよびカラードップラー画像の向上,パルスドップラー信号のS/N比の向上,ハーモニクスイメージングなどが研究されている。最近これら増感剤の超音波音場下の生体中におけるbehaviourに関する研究も開始され,診断用超音波強度で容易に破壊される可能性が指摘されている。この現象は超音波照射により引き起こされるcavitationに類似した現象と考えられるが,free radicalと関連するinertial cavitationとは異なる,non-inertial cavitationと類似した現象と考えている。しかし,生体内にある程度の量のcavitationのnucleiを投与するわけであるから,これら増感剤の超音波音場下の生体作用については充分な検討が必要である。

一方,わが国では未だに本剤が認可されず,この分野における臨床研究に支障を来しており,引いては超音波医学・医療の分野で遅れをとることは否めない。そこで日本超音波医学会安全委員会(旧組織名)ではワーキンググループを結成して,超音波増感剤の生体作用に関する研究を開始することとした。研究組織は名取道也(主任),竹内康人,梅村晋一郎,工藤信樹,土屋健伸の5名である。平成10年度に本ワーキンググループは,超音波増感剤の挙動に関してin vitroにおける検討を行った。その成果を1998年のIEEEで発表したので,その概要につき紹介したい。


Abstract 名取道也

いわゆる超音波増感剤はマイクロバルーンから構成されているが,本研究ではそれぞれ硬,軟の外被を持つ2種類のマイクロバルーンの破壊閾値について研究を行った。硬い外被を持つ超音波増感剤の疑似剤としてPVC-ANを,軟かい外被の増感剤としてはわが国でも市販された実績を持つAlbunexを用いて実験を行った。超音波のマイクロバルーンによる散乱波形はハイドロフォンにて受け,10bitのA/D変換能力を持つデジタルオシロスコープを使用して解析を行った。2MHzの超音波照射後最初の5msecの反射波形につき高速フーリエ変換を行い,subharmonicsの検出をもってマイクロバルーンが破壊されたとした。PVC-ANの破壊閾値は1.5?2.25W/cm2(Ispta)と確認された。Albunexは本システムの最低照射強度0.1W/cm2(Ispta)以下であったため確認できなかった。

本研究は日本超音波医学会安全委員会ワーキンググループの活動の一環として,日本超音波医学会の研究費により行われた。


原論文(M.NATORI, T.TSUCHIYA, S.UMEMURA, T.SHIINA, Y.TAKEUCHI, N.KUDO,"THRESHOLD OF MICROBUBBLE AGENTS COLLAPSE BY ULTRASOUND IRRADIATION,"Proceedings OF 1998 IEEE INTERNATIONAL ULTRASONICS SYMPOSIUM,pp. 1435-1438,1998)

Abstract 竹内康人

倒立顕微鏡とCCD-TVカメラによる直視下に試験水槽を設置し,これにレーザーダイオードによるマイクロ秒以下の極短パルス光照明系を併用してマイクロバブルないしマイクロバルーン系のコントラスト剤(この実験では等価な代替え物質を用いた)の音響パルスによる破壊をタイミングを合わせて観測するためのシステムを構築した。これにより照射系の焦点近傍でマイクロバルーンの殻に亀裂が入り破壊して行く一連の過程がビデオ撮像出来る様になった,未だシステムのタイミング上の問題が残っているので,まさに破壊するその瞬間の同期撮像には成功していない。本研究は日本超音波医学会安全委員会ワーキンググループの活動の一環として,日本超音波医学会の研究費により行われた。


原論文(Y.TAKEUCHI, "PULSED STROBOSCOPIC VISUALIZER TO SYNCHRONOUSLY MONITOR THE MICROBALLOON UNDER INSONIFICATION," Proceedings of 1998 IEEE INTERNATIONAL ULTRASONICS SYMPOSIUM, pp.1645-1648, 1998)