Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.8(2022年)→1.9(2023年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2023 - Vol.50

Vol.50 No.04

Editorial(エディトリアル)

(0213 - 0214)

超音波検査のジェネラリスト

Ultrasound generalists

岡田 基

Motoi OKADA

編集委員,旭川医科大学救急医学講座

Associate Editor, Professor and Director, Department of Emergency Medicine, Asahikawa Medical University

キーワード :

医学の進歩とともに病態の解明と治療法が進歩し,専門分野が細分化されるとともに「スペシャリスト」が多く輩出されてきました.一方で,一次医療機関や救急外来などでは「ジェネラリスト」の要素が求められ,その役割は大きくなっています.  超音波機器の技術革新も目を見張るものがあり,今ではワイヤレスやらタブレットやら,はては自分のスマホでエコーを映し出す時代です.40年前学生時代に触れた,洗濯機大のエコー機器の真っ黒な5インチ程度の画面から心臓を描出していたころと比べると隔世の感があります.  私は,循環器医ですが,診療所勤務の際,カテーテル検査ができるわけもなく,同期入局者が心カテ検査を何例行ったなどという話を聞きながら,循環器医としてのアイデンティティをどのように保ったらよいのか悩んでいました.  へき地の診療所勤務をしていた駆け出しのころ,呼吸苦の患者にエコーを当てると右室が拡大しており,TRPGが60mmHgでした.収縮期血圧は80mmHgであり,救急車を要請し,隣町の総合病院へ肺血栓塞栓症の患者がショックバイタルなので診てほしいと連絡した.面識もない先生に診療所での診断なんて当てにならないような言われようだったが,その後,丁寧な情報提供書とともにその患者が戻ってきた際には,とても嬉しかったことだけでなく,エコーがあったからこそ診断・救命できたことを思い出します.  現在,救急医として後進の指導に当たっていますが,超音波ほどおもしろいツールはありません.失神患者の頸動脈の解離所見から大動脈解離を診断したり,肺エコーからARDSや肺血栓塞栓症を疑ったり,CO中毒患者の心筋障害のフォローアップに用いたり,visual EFから敗血症のフェーズの推定に用いたりしています.救急医も外傷時のeFASTはできますが,緊急疾患の多い循環器領域でのエコー は敷居が高いようでした.カテーテル治療を行う循環器内科医が自ら心エコー検査をあまり行わなくなったころ,なんとか簡便に診断できないものかと試行錯誤を繰り返していました.  そんななか,point of care ultrasound (POCUS)という言葉を知りました.これぞ私の目指していた世界だと目を輝かせました.それまでの我流のちょいあて心エコーから,FoCUSをはじめ,RUSH examやFATE,さらに肺エコーを用いたBLUE protocolやFALLS protocolにいたるまで,世にでている各種プロトコールを試してみています.それでも自分で作ったプロトコールは使いやすいのではと自負しており,学生や研修医の意見も取り入れながらupdateしています.重症コロナ患者の診察では,ハンドヘルドエコーによる肺エコーでの評価は,ECMO患者や人工呼吸器患者,伏臥位患者にも有用でとても重宝しました.また,輸液反応性の評価にも重宝し,輸液量やカテコラミン使用量,デバイス除去のタイミングなどの補助手段にも用いています.今では,エコー仲間と作成した,研修医や学生向けの腹部pocus,経腸栄養の流量評価をはじめ,看護師向けには膀胱カテーテル,末梢血管確保などの教育にも有用です.  集中治療医学会や救急医学会ではPOCUSを専門医取得の必須項目にするようですが,POCUSの標準化にはまだまだ試行錯誤があるのではないでしょうか.  今どきの研修医は回診時にエコーを持ち歩いています.ベッドサイドのPOCUSは患者とのコミュニケーションがとれ,日々の評価もできるなんと素晴らしい道具なのでしょう.  日本超音波医学会はもちろん,各臓器別エキスパートが集まる超音波の「スペシャリスト」の集団ですが,超音波の「ジェネラリスト」は超音波教育だけでなく医学教育としての活躍の場があるのではないのかとひそかに期待しているところです.